くちびるを奪われた

 期待のワインテイスティング会場はスーパーの試飲コーナーみたいだった。銘柄がワインの前に貼ってあって小さなグラスが置かれている。赤・白と20本ずつくらいあるけどまあまあなのは1つずつ。うーん、期待していた雰囲気とはちょっと違う。Riekoが仕事が終わらないので会場に一人で乗り込んだ。アメリカ主催なので、知った顔に出くわすだろうと思ったらやはりマクドナルド大佐がいた。(メールで今度マクドナルドに一緒に行こう、と言った陸軍のおじさんである。ありえねー。)しばらくすると海兵隊警護隊の若者達が3人登場。皮肉にも25歳前後の彼らが一番の安全パイだ。礼儀正しいし、社交的だし、ルックスも良い。東京にいた7−8年前も私は彼らと仲良くしているが、頼りにこそなれど変な言い寄られ方をしたことは一度も無い。沖縄で悪名を轟かせている輩と同じ組織とは思えない。とはいえ、彼らは高卒で海兵隊に入った中での素行の上での先鋭部隊なんだけど。

 ワインテイスティングを切り上げると海兵隊の子達に一杯誘われた。彼らは寮生活なので共有スペースとバーがある。これまた安全な雰囲気なのだ。30代のNGO勤務の女性2人と私との3人で、バーカウンターで海兵隊達と向き合う。バーテンダーとおしゃべりしているような心地よい空間。その場には空軍の下士官もいた。母親が日本人という彼は演歌を歌えばきっとJeroみたいだ。隣で身体を寄せてきているなと思ったらちょっと不自然に肩を組んだ。私が手を洗いに席を立って、戻つときバーカウンターからは死角のトイレのドアを開けた瞬間に、目の前にいたJeroに口づけをされた。1秒で次の行動の判断をしなきゃいけない。ここで拒絶すると無意味なコミュニケーションが発生して思わせぶりになる。というわけで一瞬軽く応じて、相手が次の行動に出る前に、何事も無かったかのように立ち去った。その瞬間にイヤリングが落ちて、拾っているという間も立ち去りに貢献。いやはや、こんな不意打ちは初めてである。

 3次会に移動する際にRと合流。英系のパーティーに行く。状況を見定めている段階で黒髪がお洒落にちぢれている、顔立ちの整った奇麗な英語を話す男性に呼び止められる。以前ハイキングの帰りに車が無くて、家まで送ってもらったのだ。女性と一緒に運転席にいた彼の顔なんてまったく覚えていなかった。その場は会話をするタイミングじゃなかったから移動。しかし、そこで私の夜は急な終わりを遂げる。ワインを試飲しすぎたのか、体調が悪かったのか、その後トイレの個室に籠る。Rが2度3度様子を見に来てくれて水を差しいれた末に、帰りますよーと連れて帰られた。個室から出て外に出た瞬間に吐いた。すると、偶然居合わせた、ハイキングの彼が心配そうに大丈夫?と声をかけてきた。ああ、なんてタイミングの悪いことよ。顔も見ずに、「うん」と立ち去った。期待のワインテイスティングはハプニングだらけの夜となった。それも、どれもあまりスマートではないハプニングだ。