アラブの王子様は幻?

 Riekoに翌日「めちゃくちゃかっこいい人に話しかけられていなかった、私?」と携帯メールを送ったがRの反応は渋い。「エジプト人ですね。一応電話番号はゲットしましたぜ、社長」という返事は有り。職場で顔を合せて、確認すると「しばらく2人で話してましたよ、なにを話していたか聞いていないですけど。」おかしい。私は通りすがりに二言三言交わしただけのはずなのに。「私たちが帰るまでずっと、友達は大丈夫なのかって心配していましたよ。帰りもとんで出てきたじゃないですか。でも、顔立ちも濃いし、タイプじゃないと思いますよ。そんなにかっこよく無いですよ。」朦朧としている中でそのかっこいいエジプト人というのは4割増になっているみたいだ。おまけに私は彼の金券を預かったまま消えたというのだ。「なんかせこい奴ですよね。心配していたと思ったらそういうことかよ。」Rが自分の電話番号を渡さないので、相手に押し付けられた名刺にはメアドも載っていないからアクションの取りようも無い。しかし、手元に金券は無い。「いやあ、こちらから何か働きかける程の感じの人ではなかったですよ。」おかしい、私の朧げな記憶ではアラブの王子のようだったのだが。しかし、先方は既に2度私とハイキングで一緒だったというのだ。ということは白昼にさらされていたときは私はまったく関心を示さなかったという事である。というか、意識がしっかりしている時と言おうか。

 そしてあの晩、私はR以外とは会話をした記憶はまったくない。ところがシリア人姉妹に紹介され、会話をし、私の名前を呼ぶアメリカ人にあなたとは会った事が無い、と冷静に言い切っていたらしい。誰だ?そして、いやにあっさりと別れたなあと思った、トイレから出た瞬間にキスのJeroは電話番号を聞き出そうとあの手この手だったのに、私は書くものがないだの、人の名刺をメモ代わりに使うなんて失礼だとか言って渡さないでいたらしい。あれ、聞かれなかったんじゃなかった?その合間に別人のようにテキパキと仕事の電話を取ったそうだ。たしかに、覚えの無い会話について、翌週仕事メールが入っていて、この人はどうして私と電話で話したなんて嘘をついているのだ?と首を傾げてた。JeroについてはRに「これJero。チューしちゃった。」と言ったのは覚えている。「口ですか?」と聞き返すRに「当たり前しょ」とぴしゃりと言い返したらしい。なんとなくそれは覚えている。じゃあねぇと最後、頬を合せて電話番号を渡さずに切り抜けた。すごい、夜のほとんどをオートパイロットで操縦していたということだ。詳細は省いて先輩に話すと、「40過ぎるとそういうことって多いんだよね。俺もしっかりと受け答えした内容とか次の日全然覚えていないものな。」そして私が大事にしているカメラもどこかで忽然と消えた。