どこを見渡しても年下だらけ、それもかなり

 週末は雨上がりのプールパーティーで始まった。前々回に仏系パーティーで会ったトルコ人がいると固く信じて挑んだRieko。会える事を切に願っているわりに名前を適当に覚えている。「アダモ、絶対いますから。私に逢うために。」と意気込んでいる。前回アダモの友人と称する人が、「今アダモが君のことを休暇先から電話で聞いていたよ。」と言ったので舞い上がっている。「ちゃんと私の名前を覚えていたんですよ!アダモ〜♡;」えー、そんなにかっこ良かったっけ?まだ人もまばらなパーティー会場で、2人座って人々を観察いていると、「あれアダモじゃない?」と私が先に見つけた。「どうしよう、どうしよう。緊張しています、私。」と騒いでいるうちにアダモが「元気?」と寄って来た。「あらあ♡;」と立ち上がるRは実に冷静にシナを作っている。あながちRが「私に会いに来る」言うのも外れじゃないかも、と思ったのは、前回会ったときはただのTシャツだったのに、今回はお洒落なカフスまでしているシャツ姿である。それを指摘すると「いやあ、緊張してカフスまで目が届かなかった。シャツ姿の男性って好きなんですよね。やっぱりかっこいいですよね。」ー 全然緊張しているように見えませんから。まあ、今回のアダモはわるくない。ところで名前は分かったのかい。「分からないんですよ。だからとにかく二人称の連発ですよ。」というのでわざと私が名前を聞いてあげた。なんだよ、ぜんぜんアダモじゃないぞ。それなのにずっと「アダモ」と言いかけては「誰の話?」と聞かれて誤摩化していたらしい。

 私の方は、あのエジプト人(酔った目にはアラブの王子)の顔を確認したいと思っていたのだが、やっぱりいない。かわりに数ヶ月前に一緒にご飯を食べたカナダ人がいたけどこちらに気がついていないらしい。どうせフェイスブックによると数日後にはこの街を離れるらしいから、放っておく。それに前は可愛いと思ったけど髭をそると顔がちょっと貧弱でタイプじゃない。そしてバーに行く途中でえらくきれいな顔立ちの人に話しかけられた。口を開いた瞬間にオランダ訛りが聞こえる。ブロンドで日本人好みの薄い顔だ。5週間この街にいるこれまた警護隊だ。お前もか、と落胆しながら警備の話を聞いていると「君いくつ?」と聞かれた。若者らしい無骨な質問。肌のなめらかさからしてもだいぶ下だろう。「あなたよりだいぶ上。」そんなはずはない、と言うので年齢を聞くと若干27歳。「ほらね。」と笑ってその場を離れる。いりません、出張中の27歳の警察官とのアバンチュールなんて。

 歳を取ってれば良いのか、というかんじで、前回会ったスペイン人の警察がじとーっとこちらを見つめている。黒いシャツに隠されていた腹が今回はTシャツから突き出ている。「ありえない、おやじ」とはRの談。いつも軽口を交わしているアメリカの海兵隊員が声を落として「君に2回携帯メール送って2回電話したんだけど。」と携帯を見る。もらっていないけど、と渡した覚えも無かったけどなあ、と思いながらの返答。そこで礼儀として番号の交換。ついでにお互いの年齢確認をすると34歳だそうだ。年齢的にはまだまし。結婚歴があるかと子供がいるかを聞かれた。しかし、君は毎回色気のある中東系女性とべったりじゃないか、私に何を望むというのだ。

 そしてRの顔見知りの地元の金持ちみたいなお洒落に帽子を被りこなす若造を紹介された。最初の会話で全然脈絡無く「付き合っている人いるの?」と滑り込ませるので、「その質問には答える必要はないと思うな。」と返す。肯定すれば嘘をつくことになるし、否定すれば面倒だ。「年齢は?」と聞かれるのでまた、だいぶ上、と答える。即興でラップをするかと思えば、久しぶりに声を上げて笑うような莫迦なことが次から次へと出て来る。帰り際には、耳元でささやくように「君は蠱惑的だね。」「笑顔が良いね。」と言うので「なに口説いているの。」と笑うと、「僕は口説くなんてことはできない、本当のことを言うだけだよ。」と白々しくも言う。「そんなうまいくどき文句聞いた事無いよ。」と笑うと歯が浮くような口説き文句を並べて、口説くというのはこういうことだ、と冗談にする。言葉巧みな頭の回転の早い若者には弱いが、30歳の回教徒に付き合っている暇はわたしには無い。Rは帰りの車で、まだ誘われてもいないのにちょっと遠くに住むアダモとのデートを心配している。