そりゃ、刑事さんとかシークレットサービス系は格好いいでしょう。

 Riekoにとっては初の米系パーティーである。相変わらず露出度と派手な色使いの出で立ちに、舞台化粧ばりのアイメイクとスタイリングでの登場である。警備の登録がうまくいっていなくて、外で30分も待たされる。しかしRが地元の有力者に思い切り媚を売った電話をかけて、中から中佐くらいの人を呼びつけてうまく中に入れた。
 「この前見かけたアジア系の海兵隊いないかなあ♡」とRは張り切っている。入った瞬間に発見したらしい。アジア系じゃなくてメキシコっぽいじゃないか。それにあの髪型と体つきは軍隊でも海兵隊でもない。「どうしよう、どうしよう。」と狼狽えて私の腕を掴むのは本の0.5秒の話で、もうその相手と会話を始めている。たしかにルックスは良い。でもそれだけじゃないか、おい、R。嬉しそうに「法務省の人ですって!」と戻って来るから、冷水を浴びせるようにそれはFBIの人ってことよ、と返す。大使館にいる法務省の人というのは警察庁の出向みたいなものだ。FBIでも法務官もいるけど、あれは絶対に現場の保安部隊。刑事さんでしょう。「また警察関係者ですか・・。」と今更しょうがない落胆。立ち上がりの早いRはお得意のトルコ人を見つける。紹介してもらうとこれまた警察関係者。その輪の中にちょっと見劣りする、人の好さそうな青年がいるので所属を聞くと商務部。日本で言えば経産省。やっぱりな。

 Rが顔がきれいと形容していた私の電話番号を執拗に聞いてきたA、翌日「無事に帰れた?」と電話をかけてきたおっさん、浮き名を流している34歳海兵隊、唇を奪ったJEROと皆さん勢揃いだった。でもRがまた外で延々とトルコの警察と話している間、私はノーマークで新しい人々と話をし、他の人にも電話番号も聞かれず。数週間で自分はもはや対象外になっている。全然虎穴じゃなかった。飽きてきたので帰るモードに入っているとRがちゃっかりFBIの人と電話番号を交換している。「何か集まりがあったら誘ってくれる、って言うんですよ。」おい、今までほとんど皆そうやって電話番号を聞いているでしょ。まあ、そうやって彼女が電話番号を交換しまくったおかげでこのパーティーにも無事に入れたのだが。しかし、Rはたちの悪そうなのばかりを気に入るから危なっかしくて仕方が無い。高嶺の花として売り出すマーケティングをしらないのか。

 到着したばかり、という若いお兄さんは日本の高校にも大学にも留学経験があるというのに日本語で話さないのに好感が持てた。この人は国務省の警護官である。シークレットサービスホワイトハウスの警護官で、大統領を警護し、国務省国務長官や外交団をする。FBIは中央官庁の連邦警察で、海兵隊警護官は陸・海・空・海兵隊の4軍の中の先鋭部隊の海兵隊の中で大使館を警護する軍人。国務省の警護官達はその海兵隊警護官を統括する立場でもある。とどのつまりは皆ボディガードなわけだから、身体も出来ていて、男っぽくて女性がふらりと行く要素を兼ね備えているのである。もうそんな集まりはいやじゃ。月末のトルコ大使館主催の軍のレセプションの招待状が手元に届いた。Rが連れて行ってください、と当然のように言うが、招待状は招待者のみに当てられたものだ。トルコ大使館のおじさんに連絡して招待状をもらうように言っておく。期待しても無駄とは分かっているが、こっちに期待する。